今年(2022年)は南アルプス市白根地区と甲州市塩山を中心に山梨県全体がさくらんぼが大凶作です。昨年は山形県が同様に大凶作でした。国内のさくらんぼの生産量は山形県が約70%のシェアを占めています。そして、北海道、山梨県、青森県、秋田県、群馬県、福島県などです。首都圏に最も近いということで山梨県には毎年大勢の観光客が来園しますが、近年、さくらんぼの作柄は大凶作、凶作が非常に頻繁化してきています。既に20年近く前に、山梨県果樹試験場では、今後20-30年以内に山梨県はさくらんぼの栽培適地から外れていくだろうという情報が流されていましたが、正にその通りになってきたと考えています。山梨県のみならず、本州全体がかなり厳しい状況を迎えるようになってきていると考えています。
殆どの果樹栽培は四月に開花期を迎え、この開花期に受粉を行い実が五月に結実してその年の新しい果実が誕生します。さくらんぼの場合、翌月つまり六月には収穫期を迎えます。りんごは秋の品種ですと10-11月になりますから、半年後になります。如何にさくらんぼの場合、受精されてから収穫期を迎える期間が短いかが解かるかと思います。
さくらんぼも他の果物同様に世界中で栽培されていますが、日本のように人工的に授粉を行っている国は殆どありません。さくらんぼ以外の果物例えば桃やりんご、梨、ネクタリンなどの場合日本では蕾の段階から、始まり花、果実の段階迄に何度も摘蕾(てきらい)、摘花(てきばな)、摘果(てつか)という作業を行い、全体の95-98%を間引きして落としていきます。つまり、たった2-5%だけを残して果実にしているのです。更に、袋掛けなどの作業をしていきますが、世界中で日本だけが行っています。世界一美味しい果物栽培をしているのが日本です。たったの2-5%に木全体の養分が集中してくるわけですから。ですから、海外の果物に比べて日本の果物は大きく美味しいのです。
さくらんぼは多くの果樹の中で最も受精率の低い果実になります。ですから、農家の方達がミツバチを養蜂業者から借りて来るだけではなく、一生懸命人工授粉を行います。開花期は山梨の場合通常4/10-4/20頃です。この10日間の気温が摂氏15-20度が適温です。そして、空気中に湿度が多い場合も受精されません。つまり、雨天日はダメです。晴天で10日間の内7-8日が15-20度で推移すれば、間違いなく豊作を迎えます。寒すぎてもいけません。この開花期の朝の気温が低くて霜が降りると雌蕊が死滅してしまいます。
30年以上昔は春の気温が低く、降霜による不作も時々ありましたが、近年では寒さによる被害は全く見られなくなりました。むしろ、四月の気温上昇に拠る被害、そして、収穫期の六月の気温上昇に拠りさくらんぼの状態が収穫する前に暑さで痛んでしまうということが頻繁化してきました。単刀直入に申しますと、さくらんぼを中心に栽培している農家は生活がかなり厳しいと思います。年間同じだけの経費を投資します。資材も燃料も年々高騰しています。そして、収穫期は年一度ですが、それは他の作物の場合も同じですが、そして、不作、凶作が頻繁にやってきています。農家の方達の高齢化、後継者不足も大きな問題です。
近年、台風の巨大化・頻発化、洪水の頻発化などが発生していますが、農業の分野でも作物を栽培することが困難になってきています。初夏のさくらんぼは勿論ですが、秋のりんごや梨なども毎年の様にやってきて、被害が発生しています。
便利さを求めて、自動車社会が誕生し、自動車のために道路がアスファルト舗装され、住宅も学校も木造からコンクリート化され、其れに伴ってエアコンを導入するようになってきた訳ですが、これらのことが全て地球の温暖化に繋がりました。そして、農業の分野でも農業を続けることが困難になって来ました。
2022年6月18日
中込一正